十一日目

 押井守の『すべての映画はアニメになる』を読み終える。

すべての映画はアニメになる[押井守発言集] (アニメージュ叢書)
 

  押井監督の作品論を、断片的にでも知れたということは大きい。すべての作品の解説が載っているというわけでもないので、押井守の入門書としては不適だが、ある程度作品を知った上で、理解を深めるために読むならば最適。ほぼ全編が過去の対談の再録なので、宮崎駿富野由悠季と言った著名人と、どんな対談を繰り広げてきたのだろうという感心を満たすために一読するのも良いだろう。

 その中で特に興味深いのは宮崎駿との対談だ。基本的には押井作品への宮崎駿の批判に対する受け答えなのだが、最初の『うる星やつら オンリー・ユー』についての対談では、後のページではボロクソに言われたと書いてあるにも関わらず、宮崎が押井へ理解を示す内容となっている。「編集が上手くまとめたんじゃないか」と、ちょっと邪推してしまうな。

 

 押井は『オンリー・ユー』が映画として失敗だった事は、本書に限らず何度も述べられているが、この「ただのテレビシリーズの拡大版であり、映画になっていない」という感覚は、劇場作品というものの特権がどんどん無くなっていったのと同様に、制作者にはあまり意識されなくなってしまったように感じる。劇場版を家のテレビで見ると、「尺以外はテレビシリーズと変わらないよね」と感じることが、最近は特に増えたように思える。劇場で見るなら"映画"足りえるのなら、それでいいという気も、一方ではしなくもないが。

十日目

 十日。とりあえず、ここまで続いて良かった。

 

 乱読する日々は続いているのだが、先日紹介した福田卓郎の『脚本家になる方法』と小林雄次の『脚本家という生き方』で重複している部分が多かったのが少し気になった。脚本家になるための道順や、脚本家になることを”オススメしない”理由あたりは、ほぼ書いてある内容が一緒だ。と言っても盗作ということではなく、同じ仕事について説明すれば内容が似たり寄ったりすると言うだけのことだろうな。

九日目

 休日になると何もしていない。いい加減にしましょう。

 

・今日見た映画

ライアーゲーム -再生-』

 うーん。

 

 僕はこのシリーズのファンで、それは松田翔太演ずる秋山深一のキャラクターに痺れているからに他ならない。一人の強力なキャラクターさえいればシリーズが牽引できるという事は古くから良くあることで、キャスト一新で新作を作ると聞いたときも、「秋山さえいれば作品として成立する」と思った。こうして見終えても、やはり秋山の強烈なキャラクターによって作品の出来がワンランク上がっていると感じた。少なくとも彼のファンである僕は変わらぬ彼の姿を見ることが出来、満足した。

 また、多部未華子扮する新ヒロインも、キャラクターとしてはいまひとつ特徴が無いのが残念ではあるが、神埼直とはポジションが近いながらも異にしていて、彼女が秋山を裏切ったとき、同時に僕も「裏切られた!」と思わずにはいられなかった。そうした彼女が、結果として秋山に協力していく気持ち良さも、本作にはある。

 

 ただ。何が問題かというと、新シリーズの一作目という認識で見たのだが、過去のシリーズを引きずっている印象がやはり、ぬぐえないのだ。そこが勿体無い。勿論シリーズとして継続的に取り入れなければいけない部分はあるのだが、例えば「負けるほうが余裕ぶる」という展開が本シリーズでは多用される。そのリアクション芸がシリーズの面白さの一つであるが、さすがにワンパターンで代わり映えがしない。これがテレビシリーズぐらいまでだと、様式美として了解されうるレベルであるが、リブートでまで同じことを何度もやられると辟易してしまう。秋山以外の旧キャラクターも実況・解説的なポジションとして登場するが、彼らもいてもいなくてもいい存在であり、キャラクターの人気だけを借りようとポンと出て来た事が、旧作への執着というか、新シリーズを作ろうという気概をあんまり感じさられせなくて残念だった。

 それと本作がいまひとつ面白みに欠ける理由が、新井浩が演じている本作のライバルに、あまりに敵役としての魅力を感じない部分にあるのではないだろうか。勿論彼が有利に運び、主人公チームが窮地に陥る展開は存在するのだが、敵としての強大さの強調には失敗している印象があり、結果的に「秋山がミスした」という印象にしか至らないのが歯痒い。傑物そうな印象が彼に無いわけではないが、「強そう」以上の存在感は、彼からは感じなかった。そのためか、本作はどうも緊張感に欠ける。唯一ヒロインが敵に回る展開は、前作の事もあり、どうなってしまうのかと手に汗を握ったが、その展開の結末も肩透かしだし、それ以外に至ってはほぼ完全に秋山を中心に物語が回っているようにしか見えない。松田翔太のムービーとしては一級品だが、映画としてはいまひとつ乗り切れない出来だ。

 

 余談だが、『獣電戦隊キョウリュウジャー』でキング役を演じていた竜星涼が、ひ弱な大学生役を演じている。『俺たち賞金稼ぎ団』でもそういう役を演じていたと思うが、彼の新たな一面が垣間見えるのでお勧め。殆ど映らないけどね。

六日目

 大学に行ったら古書市をやっていたので、山田和夫の『映画の事典』と新井一の『シナリオの基礎技術』を買う。昨日も言ったとおり押井守の本が読み終わっていないのに、こんなに買い溜めてしまって大丈夫なのだろうか。

 

映画の事典

映画の事典

 

 

シナリオの基礎技術

シナリオの基礎技術

 

 

 お金もないのに何をやってるんだ、と思い家に帰ると、今度は小林雄次の『脚本家という生き方』が届いていた。

 

脚本家という生き方

脚本家という生き方

 

 

 昨年小林雄次先生にお会いする機会があったのだが、「経歴や作品についての詳しくは自著を読んで下さい」と仰られていたので、購入。とは言え、そう思ってから一年越しの購入なので非常に遅い。それだけ自分が脚本家になるか悩んでいたということの証左でもあるのだが。先生、あの時はありがとうございました。

 

宇宙刑事ギャバン THE NOVEL

宇宙刑事ギャバン THE NOVEL

 

 

 その時頂いた*1本も掲載しておく。シャリバンシャイダーの新作も公開されるということで、今この第一世代と第二世代を繋ぐ橋渡し的な作品である本作を一読する価値は多分にあるだろう。

 

 それにしてもここ数年、学生という身分でありながら、新書の類は授業で要請された書籍を何冊か読んだ程度だったので、今こうして書籍を収集して乱読していると、自分の読解力の低さを痛感することが多々ある。こうした人間がライターを目指すのはいかがなものかと思うが、一方で「脚本家になる事に"遅い"はない」と、さる作家が仰られていたことを頼りに、今からでもやれるだけのことはやっておこうと思う。

 

・今日見た映画

『自転車泥棒』

 戦後間もないイタリアは貧困層が職にすらありつけない状況であった。自転車を持っているという条件で職を得た主人公は質屋から自転車をなんとか買い戻すが、就労したその日に自転車を盗まれてしまう。

 常日頃から「先輩は白黒映画見なさ過ぎ!」と後輩に*2言われているので、いい加減山を崩しに掛かろうと思って、見た。旧作だから馬鹿にしていたということは無いのだが、自転車を盗まれた男が荒み、やけっぱちになっていく姿が伏線も交えながら段階的に描かれており、素晴らしい。時代など関係なく、優れた作品は構成が洗練されているのだと再認識した。

 ラストシーン、途方に暮れた主人公は、ついに自分がされたように他人の自転車を盗もうとしてしまう。このシーンは賛否の分かれる所であるが、僕個人の意見だが、痛く共感させられた。

 勿論自転車を盗んだ経験は無いけれど、何かを盗んで逮捕され、刑務所で途方に暮れるという夢を僕はしばしば見る。それは人生に対する不安の現れだと認識しているわけだけど、同時に「自分はふとした拍子に、道をたがえてしまうかもしれない」という恐怖心が内側に存在するということではないのかな、とも思っている。

 作中主人公の妻が夫の就職の事で胡散臭い相談所に通っている事が露見して、主人公は呆れるのだけれども、結果的に追い詰められた主人公も自転車を無くした事を相談しに行ってしまう。自分はそういうことはしない、といくら思っていても、環境がそうさせる、心の奥底がそうさせるなんてことは、往々にして有り得るわけだ。

 主人公は結果として自転車を盗んだわけだが、最初の自転車泥棒も同じように、ふとした心の誤りで盗んだだけかも知れない。そう考えていくと、誰が悪いのか分からなくなっていく。ラストシーンで自転車を盗まれた男は、その事を理解した。だからこそ主人公を許した。泣いて主人公にすがりつく彼の息子を見て、彼が悪人で無いと理解したのだろう。無論全員だから悪事をして良いわけではないが、善人が徹頭徹尾善人でいるということの難しさを象徴的に描いている。

 この映画は敗戦直後のイタリアの状況の縮図なのだろう。描かれるシチュエーションは悲惨としか言いようが無いが、しかしこれは紛れもなく彼らにとってのリアルだったのだ。そうした悲惨な状況に思いを馳せずにはいられない。だが、この映画には同時に一縷の希望が存在する。息子であり、仲間であり、主人公を許した男だ。そのことがこの映画をただ陰惨なだけの作品ではなくしている。我々の心は今社会情勢によって荒んでいるけれど、それは我々の本質ではない。そして我々は、まだ全てを失ってはいないのだ。この作品は今尚、視聴者にそう語りかけてきているような気がしてならない。

*1:その節はありがとうございます

*2:先ほどの後輩とは別

五日目

 脚本家になるための最低限の知識を身につけようと思って、福田卓郎の『脚本家になる方法』を買う。 

脚本家になる方法 (寺子屋ブックス)

脚本家になる方法 (寺子屋ブックス)

 

  早速読もうと思うが、先週買い込んだ押井守の書籍6冊をまだ読み始めてすらいないので、いつ読み始めることになるやら。

 

・今日見た映画

『アドレナリン』

 2作目の『ハイボルテージ』は見ていたのだが、1作目はまだだったのでようやく視聴。ちゃんと2作目に繋がっている部分が多く、シリーズ物は1作目から見なければダメだな、と後悔。

  自宅を襲撃され、毒を注射された殺し屋チュリオスが、毒を緩和するためにアドレナリンを放出しながら仇を殺しに向かうと言う内容。死にかけのチュリオスが、自分の毒を紛らわすために暴走する前半の展開は過激で、自分の車を踏まれた事に苦情を言いに来たオッサンを轢き殺したり、ショッピングモールに車で突っ込んだりと「おいおい、アメリカはどこまで自由な国なんだよ!」と主人公の暴走に腹を抱えることは必至。ただ、序盤を全力でトバしすぎた所為か、中盤は似たような展開が続き、彼女に自分が殺し屋であると打ち明けるシークエンスも盛り上がりに欠け、ダレ気味。終盤で盛り返した印象はあるが、結果的に中盤の低調さが全体の印象を下げててしまっている。改めて2作目も確認しなおしたが、緩急のバランスが本作よりも良く、より楽しめるフィルムに仕上がっていると再確認した。